72枚の羽が生み出す北欧の柔らかな明かり-PHアーティチョーク-
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インテリア
text : 宇田川しい
名作と言われる照明は数多くありますが、ポール・ヘニングセンのPHアーティチョークは中でも優れたデザインと言えるでしょう。
円形に6枚並べたシェードを12段重ねた姿は、まさにアーティチョーク(チョウセンアザミ)そのもの。
一見して派手な造形ではあるものの、計算しつくして配置されたシェードは光源を人の目から遮り、眩しさを感じさせることがありません。柔らかな間接光はいかにも北欧デザインらしい優しさを感じさせます。
PHアーティチョークはコペンハーゲンのバンケットルーム「ランゲリニエ・パヴィリオン(Langelinie Pavillonen)」のためにデザインされたもの。
ランゲリニエ・パヴィリオンは1958年にリトル・マーメイドで知られるコペンハーゲン港に建てられました。ウォーターフロントの景観の中で、有名なマーメイド像を眺めながら食事が出来るというセレブなグルメスポット。その照明計画を任されたヘニングセンは華麗でありながら機能的にも優れたフィクスチュアを実現しようと考えたのです。
時間的な制約がある中で、彼は自らが30年ほど前にデザインし製品化されていた「PHセプティマ」というペンダントライトに着目しました。これは7枚のガラス製シェードを重ねた華やかなもので、それゆえに第二次大戦後の物資不足の影響から製造中止を余儀なくされていたのです。PHセプティマのアイディアを発展させることで、ヘニングセンはわずか3か月のうちに72枚のシェードを組み合わせたマスターピースを完成させたのでした。
ところでランゲリニエ・パヴィリオンにはヘニングセンの照明のみならず、ヤコブセンのチェアやモーエンセンのソファなどが居並び、ハウス・オブ・デニッシュ・デザインとも称されます。最上階のペントハウスを設計したのはヴェルナー・パントン。その名を冠し「パントン・ラウンジ」と呼ばれています。デンマーク生まれでありながら北欧の木材を好まず、FRPなどの新素材にトライしたパントンは北欧デザインの反逆児と言えるのかもしれません。パントン・ラウンジは、いかにも彼らしいスペーシーでちょっとアヤシい大人のムードを湛えています。
開業以来、大きなリニューアルをすることなく営業中のランゲリニエ・パヴィリオン。いまもヘニングセンが配したその場所にPHアーティチョークはあります。コペンハーゲンに行ったら、マーメイド像とともに、ぜひ訪れてみたい場所です。
近代照明の父とも言われるヘニングセン。その作品の中でも造形美が際立つ「PHアーティチョーク」。ヘニングセンの他の作品同様、ルイス・ポールセン社が製造販売している。
【Poul Henningsen(ポール・ヘニングセン)】(1894−1967)
コペンハーゲン生まれ。建築家としてキャリアを開始するが、後に理想の照明を作ることを志すようになる。1925年からはルイス・ポールセン社とパートナーシップを結び、数々の名作を世に送り出す。デザインの分野のみならず、社会評論家、レビュー作家としても活躍。デンマーク文化に多大な功績を残した。
PHアーティチョークの元型となったPHセプティマ。30年も前のアイディアを発展させることでアーティチョークは生まれた。
宇田川しい(うだがわ・しい)/コラムニスト、ライター。
インテリア・雑貨・文具などに関するプロダクト史を得意とし、雑誌やウェブにコラムを執筆。『月刊総務』誌上でコラム「総務、いまむかし」を長期連載。ビジネスマガジンアプリ『Management Leader』ではカルチャー系コラム「疑わしい世界」を連載中。
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