-フィンランドの森が育んだ温もりのあるデザイン- Alvar Aalto(アルヴァ・アアルト)のスツール60
text : 宇田川しい
カーブのついた脚が特徴的な白木の可愛いスツール。
公共施設などでも広く使われていて、誰もが一度は腰をかけたことがあるのでは?
この「スツール60」は建築家、アルヴァ・アアルトによって1933年にデザインされたもの。「L-レッグ」とも「アアルトレッグ」とも呼ばれる特徴的な脚のカーブは整形合板を加工する独自の技法によって作られています。
実は世界で初めて合板を曲げてイスを作ったのはアアルトでした。それはスツール60の発表から遡ること2年。自身が設計した結核療養所で使うイスのデザインを考えていたときのこと。初めはその頃、隆盛だった金属のパイプを曲げたバウハウス的なものを予定していたアアルト。しかしメタルの冷たい質感は病人にとって過酷なのではないかと思い至ったのです。そして、フィンランドで豊富に採れるバーチ(カバ)材に注目。成形合板の技術を開発し、「パイミオチェア」を作り上げたのでした。そして、このイスの好評価を受けたアアルトはアルテック社を創設して自作の家具を国内外に販売。商業的に成功を収めます。
これと前後して成形合板の技術に多くのデザイナーが取り組み、飛躍的な進化を遂げていきます。イームズの「DCW」やヤコブセンの「アントチェア」など、名作イスが次々に発表されていくのでした。
アアルトの創造力とアルテック社の技術力が生んだスツール60。この小さくてかわいいイスには家具を作る技術、デザインの歴史がぎゅっと詰まっているのです。
【スツール60】
スツール60は、もともとアアルト設計のヴィープリ図書館のために作られたもの。現在までに約800万脚を売り上げるベストセラー。現行品には4本脚もあるがもともと3本脚。これは北欧は石床など凹凸のある床が多く、4本脚だと安定しにくいという理由から。
【パイミオチェア】
アアルトが設計したパイミオのサナトリウムのためにデザインしたパイミオチェア。当時は強度に欠け家具には不向きと言われていたフィンランドの白樺材。しかし合板にすることで使用可能に。
【DCW】
イームズが1946年に発表したDCW(ダイニング・チェア・ウッド)。パイミオチェアのように成形合板を一方向に曲げるのではなく、立体的にカーブが付けられています。
【アントチェア】
1952年にヤコブセンが発表したアントチェア。その開発の際にはイームズのDCWを取り寄せて参考にしたのだそう。しかし、単なる物真似に終わらないのがヤコブセンの真骨頂。成形合板を用い、立体曲面で背座一体となったイスとしては世界初のもの。
●Alvar Aalto/アルヴァ・アアルト(1898−1976)
フィンランドを代表する建築家。建築はもちろん家具やガラス器、照明器具など幅広くデザイン。オーガニックで温もりのあるテイストが北欧らしさを感じさせます。自らがデザインした家具を製造販売するため妻アイノらとともにアルテック社を立ち上げ、成形合板などの技術開発も積極的に行いました。
宇田川しい(うだがわ・しい) コラムニスト、ライター。
インテリア・雑貨・文具などに関するプロダクト史を得意とし、雑誌やウェブにコラムを執筆。『月刊総務』誌上でコラム「総務、いまむかし」を長期連載。ビジネスマガジンアプリ『Management Leader』ではカルチャー系コラム「疑わしい世界」を連載中。
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